ARTIST - Philippe Weisbecker(フィリップ・ワイズベッカー)

ファイルを持ったフィリップ・ワイズベッカー氏

「生まれた線に、自分が驚いた」

最初はタータンを観察し、何度も何度も線を描きました。描いては、違う、を繰り返す、長いプロセスがありました。自分のなかでタータンを理解するために、必要な作業だったんです。まるでリレーのようでした。少しずつ、使える要素をつなげていくんです。そして徐々に、自分なりに解釈した方向に進みました。 多数のデッサンを制作したのですが、そのなかに、今回のもととなる一枚がありました。塗りつぶした多角形が組み合わさったものなのですが、あるとき、その多角形の輪郭線を描いたみたんです。そうしたら、思いもよらない線が現れました。最初は全く思いつかなかったものなので、目の前で起きている状況に、私自身が驚きました。そして、とてもいいな、とすぐに思ったんです。タータンのエスプリから、想定もしなかった線が生まれました。 「radiance」のコンセプトは、ネットワークのように無限に広がる線です。止まることなく、繰り返しながら、どこまでも回遊します。静止画のようにはしたくなかったんです。

ファイルを見ているフィリップ・ワイズベッカー氏

「タータンと色でつなぐ」

色にも、こだわり続けました。無地の白い紙に、いきいきと映える色です。この3色が「マクミラン/イセタン」のタータンと、私の作品とをつなげてくれています。伊勢丹というメゾンのものであることが、すぐにわかることは重要だと考えました。 でも文字は、何を表しているのか、すぐにはわからない仕組みです。受け取った人が「なんて書いてあるんだろう?」と考えながら探って、あるとき「ああ、ISETANだ!」と、見つけられるようにしたんです。なにかを少しずつ自分のものにしていく、パズルのような感覚です。 流行りすたりのあるものではなく、長く通用するものにしたいと思いました。道具のような、本質的で、機能を象徴したものが好きなんです。タータンも、そういうものですよね。

フィリップ・ワイズベッカー氏の手

「タイムレスな線」

作品を作るときには、実験的なことも恐れません。自分の「スタイル」を求めて仕事をしているのではなく、ものの本質を追求しているのです。ある意味では、何かを創造するというような、大それたことではないと、どこかでは思っています。 フリーハンドで描くと、どこかゆるい線になってしまうので、定規を使います。あくまで私にとっては、なのですが。定規を使った、ニュートラルな線が好きなんです。自分が見ているものに仕えているだけなのだ、と思えるのです。

「Radiance」とフィリップ・ワイズベッカー氏
定規を使うフィリップ・ワイズベッカー氏の手

「夢を見させてくれるもの」

私は包装が大好きなんです。なぜかといえば、夢を見させてくれるから。私はよく箱やコンテナーの絵を書きますが、その理由も、中になにが入っているんだろう?と、想像できるからです。イメージの中では、どんなものでも中に入れられます。予想するのが、大好きなんです。

フィリップ・ワイズベッカー氏

フィリップ・ワイズベッカー
Philippe Weisbecker

パリとバルセロナを拠点にするアーティスト。出版や広告の仕事も多く、JAGDA、NYADC、東京ADCなど、国内外で受賞。展覧会は世界の各都市で60回以上、日本ではクリエイションギャラリーG8、クラスカなどで開催された。フランス政府によるアーティスト・イン・レジデンスの招聘作家として京都に4ヶ月間滞在したこともある。日本でも作品集は『HANDTOOLS』(888ブックス)『WORKS IN PROGRESS』(パイ・インターナショナル)『フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり』(青幻舎)など多数出版されている。