PerfumeやBABYMETALなどの振り付けや、舞台演出、ダンスカンパニー「elevenplay」の主催など、幅広く活躍する演出振付家のMIKIKOさん。踊りによって引き出したいことは「人ってすごい」ということだといいます。振付や舞台演出を通じて伝えたい、本質的な身体表現や、日本人の強みなどを伺いました。
近道がない職業
今の若い世代の人たちは、どこでも動画が見られて、アップできて、意外と簡単にプロにもなれてしまう。だからこそ本物が、ふるいにかけられている気はします。身体を使う職業は、本来は近道が無い世界なんです。時間をかけないとどうしても滲み出てこないもの、って絶対にあると思う。インスタントにはできないものを残していく責任は、我々の世代にかかっています。
舞台が生み出す空気圧
動画が簡単にアップできるというのは、世界中に向けていつでも発信できる時代でもあるということ。だから海外の方々も日本の文化や、日本独特と言われる振り付けにも馴染んでいる感じもあるし、どこで何をやっても、決して珍しくは無くなっていると思うんです。
だから、ライブなど、生で見るものを日本から持っていったときに、どう感じてもらえるかがポイント。そのときその空間にいないと感じられない、空気の動きのようなものです。ダイナミックなエンターテインメントはアメリカなどの方が長けていると思いますが、日本の場合は、気づいたら前のめりになってしまうような見せ方や、時間の使い方、照明と振り付けと映像のシンクロのような、細部にこだわるのが強み。それは、空気圧の違いという感じもするんです。
一年間、ニューヨークに留学したときに、向こうのエンターテインメントシーンを勉強しながら、感じたことも大きかったです。それまでは日本に居ながら向こうの情報に憧れて、ダンスシーンを追いかけていたので、現地で、その人たちの中に混ざったときに、真似していてはいけないなって思ったときに、考え方を変えないといけないなと思いました。
期待に応える。予想を裏切る。
日本では、お客さんの期待には応えるけど、予想を裏切るというポイントに集中して作ってきました。私、日本の人の方が見る目が厳しいと思っているんです。ちょっとやそっとのことでは、感動してくれない(笑)。勉強熱心な日本の人たちをどうやったら感動させられるかは、結構大きなテーマです。
新しいものを取り入れてる感覚も、日本ぽいもの、今っぽいものを作ろうという気持ちは、特には無いんです。ただ、今求められてるものを作ろう、という気持ちが強いかもしれない。
ある公演をアメリカに巡回して見せたら、マジックショーのような驚きがあったみたいで。三人のフォーメーションがすごく細かく変わるとか、ものすごく動きが揃っているとか、私たちには当たり前のことが、当たり前じゃなかった。そこにこそ日本を感じる、と。「日本っぽさ」って、着物だとか、伝統芸能とか、そういうことを求められるのかと思っていたんですが、自分たちが普段やっていることにこそ、東京や日本を感じるって言われたのは、私自身の驚きでもありました。
その人にしか出せない色気
「イレブンプレイ」という自身のカンパニーで作るものに関しては、作り終わった後に「こういうことを、自分は今描きたかったんだ」って知ることの方が多いんです。もちろんコンセプトはあるんですけれど、とにかく悩みながら作るので、最初に考えたものとは違うものが出来上がることもあります。イレブンプレイは、これ見よがしにダンスすごいでしょ、っていうよりも、見ている側が感情移入できるような、踊っている人のことをもっと知りたくなるための演出を意識しています。その一つは「女性」というものを売りにしないでも、女性らしさって見せられるんだということ。その人がなにかを限界まで突き詰めたとき、例えば、思い切り踊ってもらったときに、女性とか男性とかの性別を越えて、その人しか持っていない色気が、にじみ出てくる。私は、そこに魅力を感じます。その人が気づいていない、良さを引き出すんです。
人って、すごい。
最近、最先端の技術や、テクノロジーとの掛け合わせなど、とても現代的なものが私の演出の特徴と思われがちなのですが、自分が引き出したいのは「人って、すごい」ということ。踊りにおいては、身体が楽器であり、身体がセリフを喋らないといけない。ダンサーは、自分が持って生まれたものだけで、全部を表現しないといけない職業です。ただ身体を使っているだけなのに、心を動かされる人がいる。それって、この時代において、すごく尊いことだなと思っています。それを引き出すために、テクノロジーのような、人間と真逆のものを使った方が、体温を感じられる表現を生み出すこともある。だから、逆説的に使っているところもあります。テクノロジーを掛け算する相手は、あくまでも人間。表現する人たちがいなくなれば、ただのデモになってしまうという凄みがあります。踊る側も見る側も、ゾクッとさせられればいいな、と。
今、この歳にしか感じられないこと
私の場合は、好きなことが仕事に繋がったので、その分の苦しさもあります。最初の好きな気持ちだったり、初めて仕事したときの感覚だったりを忘れないようにしたい。なんで今この職業を選んでいるのか、ということに対して、新鮮な気持ちでいなきゃなと思っています。
去年感じていた感情と、今年感じている感情が全く違うことが、すごく面白いです。20代と30代でも全然違う。なので、今、この歳にしか感じられないことをとにかく楽しみたいなと思っています。それを逃さないように、生きていきたいです。
MIKIKO みきこ
演出振付家。ダンスカンパニー「ELEVENPLAY」主宰。
Perfume,BABYMETALの振付・ライブ演出をはじめ、さまざまなMV・CM・舞台などの振付を行う。メディアアートのシーンでも国内外で評価が高く、新しいテクノロジーをエンターテインメントに昇華させる技術を持つ演出家として、ジャンルを超えたさまざまなクリエーターとのコラボレーションを行っている。